[SML 7030] Re: 日経バイト連載に関して

AOKI Atsushi aoki @ sra.co.jp
2004年 12月 24日 (金) 00:41:06 JST


SRA先端技術研究所の青木です。

ご期待に沿えるように精進しますが、書き手の性分が性分ですから、
読み手のほうに好き嫌いがハッキリと出てしまうんじゃないかしら。

安田さんからの私信にも登場したチャックさんの件ですが、例の4
人組がチャールズ・シュタルク・ドレーパー賞を受け、チャックさ
んがその1人なんだよ、とじゅんのメーリングリストで話題にした
ところです。

その話題を末尾にそのまま引用します。加えて、1年以上も前のこ
とになりますが、アラン・ケイさんについて記したメールも引用し
ておきます。クリスマスのプレゼントということで。:-)

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-------- Original Message --------
Subject: [Jun 4106] Re: 日経バイト連載に関して
Date: Thu, 23 Dec 2004 23:42:12 +0900
From: AOKI Atsushi <aoki @ sra.co.jp>

青木です。

> > #ちなみに、4人組とは、
> > #Bob Taylor さん、
> > #Alan Kay さん、
> > #Charles "Chuck" Thacker さん、
> > #Butler Lampson さん、
> > #チャールズ・シュタルク・ドレーパー賞の今年の受賞者たちです。
> > #http://www.nae.edu/nae/awardscom.nsf/weblinks/NAEW-4NHML8?OpenDocument
> > #http://www.nae.edu/NAE/awardscom.nsf/weblinks/LRAO-5WDRPD?OpenDocument
> > #これらの人たちを知らずにパソコンのプログラムを開発するのは
> > #もぐり!のて!だよ。
>
> http://www.nae.edu/NAE/awardscom.nsf/weblinks/LRAO-5WEUYY?OpenDocument
> こちらのウェブページのほうが人と形(なり)がわかると思います。

ボストンから帰省している息子が、このページのアラン・ケイさん
のところに張られていたリンクをたどったようで、パーソナル・コ
ンピュータの歴史がわかる!と宣っていました。皆さんもどうぞ。

http://www.squeakland.org/school/HTML/draper/draperprint.htm

末尾にリストされている文献の中で、私にも大きな影響を与えた論
文があげられていました。パーソナル・ダイナミック・メディアと
題した論文です。

Kay, Alan C., and Goldberg, Adele,
"Personal Dynamic Media", IEEE Computer, March 1977

辞書を引き引き四苦八苦して読んで、コンピュータへの感性のちが
いをまざまざと痛感させられたことを思い出します。マジで焦りま
したよぉー。Unix と C の勉強を止めて、Lisp と Smalltalk へと
方向転換したんですから。数ページの紙が私の生きる道を変えた。

この論文が出た年に、浅岡さんが生まれたのだと思うと、・・・。
読んだのが 1983 年だから 26 歳のときなんだなぁーと、・・・。

今、SRAの若い連中が、これらと同格になっている最先端の現代
文献に目を通しているんだろうか? ひとりとしていないような嫌
な気配が漂います。そりゃ、将来に暗いはずだよなぁー、・・・。

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-------- Original Message --------
Subject: [Jun 2250] アラン・ケイさんについて
Date: Sun, 12 Oct 2003 19:09:45 +0900
From: AOKI Atsushi <aoki @ sra.co.jp>

江戸の東側から青木です。

なにかと話題にのぼるアラン・ケイさんについて書きたいと思いま
す。Smalltalk の創始者、パーソナルコンピュータの父と称されて
いますが・・・。

彼がコロラド大学で学位を取っていることを知っている人は少ない
かもしれません。確か数学だったと思います。それもアメリカ空軍
の援助(奨学金)で大学にあがったのですよ。つまり、空軍士官の
なりそこないです。:-)

それから、ユタ大学の大学院へ行きます。アラン・ケイさんの本格
的なコンピュータ研究は、1967年から始まります。私が10歳
の時(浅岡さんが生まれる10年前のこと)です。

彼は、対話型のコンピュータシステムの研究開発に取り組みます。
一貫して、非専門家のための、子どもでも使いこなせるような、そ
んなコンピュータの実現を目指していました。そして、今でもね。

私が、初めてアラン・ケイさんの名前を目にしたのは、アデール・
ゴールドバーグさんと共著のダイナミックメディアと題する論文で
した。

1983年のことで、就職して社会人2年目の時、仕事の合間に抜
け出して、富士通のコンピュータサロンで読んだのです。SRAの
若い社員たちは、仕事の間に会社を抜け出すようなことをしている
でしょうか?

お昼休みの後はつらいでしょう。眠くなりますでしょ。そんな時に
は、会社を抜け出して、外で勉強するのですよ。コーヒーやケーキ
を食べながらね。それを許せない上司の言うことなんか聞く必要は
ありませんよ、きっぱり!

入退室の際に用いるセキュリティカード(社員証)や顔面認証シス
テムなどは、不審者の侵入を防ぐものではなく、社員が仕事の合間
にオフィスから抜け出せなくする新手の装置なんですから。:-)

話がそれてしまいましたが、その論文には、現在のノート型のパー
ソナルコンピュータのようなものの上で、Smalltalk というプログ
ラミング言語を介して、対話しながら物事を学んでゆくことの意義
が書かれていました。

たとえば、本やTVというメディアは静的で受動的と書かれていま
した。こちらから働きかけることができない。読むだけ、見るだけ。

しかし、コンピュータというメディアは異なるのだと力説されてい
ました。こちらから働きかけると反応を返す。動的で能動的ですと。

そして、1984年、Smalltalk の実物を、私は目にする幸運に恵
まれます。目にしたときの衝撃を、今でも忘れることはできません。
目から鱗が落ちるどころではない、Smalltalk を仮想マシンから作
るぞ!と決意したんですから。

UNIX や C を勉強していたのですが、すべて捨てる覚悟をするのに
十分でした。つまり、アラン・ケイさんが産み出したものが、私の
人生を左右したんですね。それぐらいに影響力のあるヤツなんです。

でもね、ちょっと【こらえ性が無い】のも欠点かもしれません。今
のアラン・ケイさんは歳を重ねて、その欠点を克服しているでしょ
うが、若いころはかなりラディカルでした。

ユダヤ人問題を云々して退学になって、空軍に入り、そこでも数々
の問題を起こします。とにかく組織には馴染まない。もし日本に生
まれていたら、官僚組織と真っ向から戦っていたでしょうね。

ユタ大学を出て、ゼロックスのパルアルト研究所に移った時代には、
ディスプレイのブラウン管が大き過ぎると言って、ハードウェア製
作の担当者のところにねじ込んだり、研究所の所長のところにも直
訴に行ったりしていたんです。

ニワトリが先か、タマゴが先か、のごとく、オブジェクトが先か、
メッセージが先か、その隘路(あいろ)に入って、Smalltalk の最
初のバージョンを作ることができなかったのよ。アホですわ。:-)

でも、彼の周りに優秀なプログラマがいました。彼らが Smalltalk
の最初のバージョンを実現して動かすのです。アラン・ケイさんの
代わりに、Smalltalk を実現した彼らを、私はアラン・ケイさんよ
りも尊敬しています。追々に紹介してゆきますから、楽しみにして
いてください。

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R2D2 (AOKI Atsushi)





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