[Squeak-ja: 2775] バーチャル酔い(Vertigo)とポケモンアニメ事件と脳の視覚
戸塚 滝登
t_totuka @ tc4.so-net.ne.jp
2005年 12月 14日 (水) 17:10:48 JST
早稲田大学子どもメディア研(NHKの方も同じ名称ですが)の戸塚です。
山梨学院大学の伊藤さんの報告を興味深く読みました。私は3年前まで小学校現場でコンピュ−タ教育を24年に渡ってずっと実践し続けていた元小学校教師
なのですが、伊藤さんのような3Dの世界をウォークスルーしていてめまいを感じる子、理科学習でプラネタリウム内で星座を見ているうちに酔っぱらってし
まう子、はては1997年12月に発生したポケモンアニメ事件のように過度に明滅の激しいテレビ画面や動きの激しく変わる映像をを見ているうちに吐き気
を感じてしまう子どもたちによく出会いました。
発達段階にもよるのですが、小学3年生から6年生(8歳から11歳)の場合、私の経験では100人ほどの中に必ず1〜2人はそんなお子さんはいらっしゃ
るように感じます。(毎年、必ず1人には出会いました。ほとんどの場合は女児でしたが。)
PC画面の
3Dオブジェクトにマッピングされているテクスチャの「きめ」が荒すぎたり、不自然な質感を持っていたりすると(質感の細かさや光線の反射具合)頭痛や
目の痛みを感じて気味悪いと訴えるお子さん、画面の遠近感が現実世界よりも超広角ぎみに過度に強調されていると動き回っているうちにふらふらに酔っぱ
らったように感じてしまうお子さん、そしてカーソルやジョイスティックをほんわずかの角度だけ動かしたのに画面の方が大きな角度で大げさに動いてしまう
と吐き気やめまいを感じてしまうお子さんなど、いろいろな症例(?)に出会いました。
個人差が激しいので対処法はさまざまでしたが、こんな場合は即、そのPCやソフトを使うのは止めさせるか、しばらく遠ざけたりしました。小学生の場合、
彼等の脳は発達途上にあります。ものを見る視覚野は思春期が来て、脳の可塑性が失われはじめるまでは形成途上にあるわけで、まだ大人の視覚のように3D
世界の遠近感や質感を正確に認識できるようにまでは,まだ”固まっていない”と考えられるのですね。
あの1997年12月に起きたポケモンアニメ事件では500人もの子どもたちが光過敏性てんかんで入院しましたが、おそらく頭痛やめまいの症状を訴えた
のは全国で1万人を下らなかっただろうといわれています。
私も当時専門家チームに混じって当時 NHKで問題のアニメ
を検討させていただいたのですが、その時の結論はやはり子どもの「視覚野の未成熟」でした。光トポグラフィーの映像はあの瞬間、前頭前野や後頭部の視覚
野ではげしいフリップみたいな現象が観察され、何か子どもの視覚野と体制感覚を司る部位に異常が起きているのが見て取れました。(現在ならfMRIの解
像度が格段に進歩しているので、Croquetで頭痛を訴えているその女学生さんの脳はその時どんなふるまいをしているのかが病院で見てもらえるのかも
しれませんが。)
どこか今回の女学生さんは、そんな稀な症例を持つお子さんがそのままで成長なさっていったような感じがします。もしも私が伊藤さんだったら、この方には
きっぱり使うのをあきらめまるような気がします。別種のソフトを与えるか、違う課題を与えてあげるという救済策はできないか検討するもしれません?(無
理に使い続けると予想もしなかった症例を呼び寄せる可能性もあるからです。)どうかよろしくご考慮をお願いいたしますね。
なお、伊藤さんが報告下さった症例は『旋回めまい(Vertigo)』と呼ばれるものの一種だそうで、古くから航空機パイロットや宇宙飛行士の訓練で頻
出する悩みなのだそうです。人間の脳に生得的に埋め込まれている視覚機能が正常に働きすぎて起きる錯覚(錯視)なのだそうで、バス酔いにかかりやすい人
とそうでない人がいるように、またよちよち歩きの赤ちゃんがよく「ふらりんころりん」と倒れまくるふるまいをするのと同じ原因で発生してくるそうです。
(先日、私は『コンピュータが連れてきた子どもたち』という本を小学館から出しましたが、この中で伊藤さんの報告下さった症例について触れています。現
在本屋の店頭に並んでいると思いますので、詳しくはそちらを御覧下さればと思います。失礼しました。)
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